「泣きたいのはオレの方だよ・・・」
思わず口から本音が漏れた。
武咸尊の背に手を回し慰めの言葉をかけようとする。その瞬間、武咸尊は顔を歪めた。
「ッ!」
とっさに回した手を引く。
「どうした、怪我してるのか?」
「な、なんでもない。私ともあろう者が、取り乱して悪かった」
気丈に取り繕う彼がとても哀れに思えた。
「それから・・・」
俯いたまま彼は言う。
「それから・・・、お前と私との関係は今後一切ないから・・・」
「なっ!!」
「ただの『処理』だと言ったのはお前だ・・・。そうだろう?」
冷たく吐き出された言葉に、もう何も言えなかった。行き場の失った手もどうすることも
出来ずに、ただ握り締めるだけだった。
そのまま離れていく武咸尊の後姿をただただ見つける。だが、数歩いったところで彼は
前のめりに体制を崩しかけた。とっさに駆け寄り武咸尊を支える。
「さ、触るなと言っただろ!」
「強がるのもたいがいにしろ!怪我してるんなら手当てを・・・」
そのままオレは武咸尊の衣服に手をかける。
「いいから触るな!や、やめろ!」
拒否する彼の手を無理に払いのけ、力任せに衣服を肩から一気に脱がす。
「ッ・・・」
露わになった彼の背に見たものは、無情にも背中一面に大きな十字架のように切り付
けられた後だった。傷口からはまだ血がにじみ出ていた。
「こ、これは軍師が・・・?どうして・・・。と、とにかく手当てを」
「いいから。これ以上、私に構わないでくれ」
言いながら、武咸尊は隠すように衣服をまとう。
「駄目だ!そんなことはさせない。こんな身も心も傷ついたお前を放っておくなんて!」
感情のままに武咸尊にすがりつく、目から熱いものが溢れ、頬に伝うのが分かった。
「風泣血、お前・・・。泣いているのか・・・」
無意識に流れた涙に動揺してか、武咸尊が顔を覗き込んだ。そのまま、オレは両の手
で武咸尊の顔を捕らえ、彼の唇に自分の唇を押し当てる。
「ん・・・」
とっさの出来事に、武咸尊は抵抗できぬままオレの口付けを受け止めた。
そのまま武咸尊を肩に担ぎ上げると、有無を言わさず自室へ向う。途中、何事かと不思
議な顔でこっちを見る兵士にすれ違う。その度に、武咸尊は背中でバタバタと暴れた。
自室の寝台の上に軽く武咸尊を投げると、道中の恥ずかしさでか彼の頬が赤く染まって
いた。
「さぁ、手当てしてやるから、脱げ!」
「大丈夫だから」
まだなお武咸尊は強がった。何を今更とばかりに、オレの方から衣服に手をかけると、
ようやく観念したのか自ら衣服を脱ぎ上半身を露にする。
「・・・ひどいことを・・・」
血の滲んだ赤い傷口に舌を這わると、ビクリと一瞬武咸尊の背中がのけぞる。
「ッ・・・、風泣血!ふざけるな。手当てだけだからな」
「今更恥ずかしがることなんてないだろ」
頬を赤らめたままの武咸尊は恥ずかしそうに言う。
「消毒しないとな」
そう言って、オレは再び武咸尊の背中の傷を下から上へと舐めあげた。
「あ・・・ッ。ふ、風泣血!わざとやってるだろう」
「もう、止める自信ないから」
そう言うと、オレは後ろから武咸尊を抱きしめる。そのまま彼のうなじに口付ける。
「やめろ、言ったはずだ。もうお前とは・・・」
先ほどとはうってかわり武咸尊は静かに呟いた。それでもかまわず、オレはそのまま
唇を離さなかった。
いっそこのまま彼を滅茶苦茶にしてしまいたかった。軍師に何をされたのか詳しくはわ
からないが、この傷を見ればだいたいが推測される。軍師にされたことを忘れるくらいに、
このオレが・・・。
武咸尊の腰に手を回し、衣服の上から愛撫する。
「や・・・」
武咸尊はオレの手の中でみるみる内に反応をしめす。
「ん・・・あぁ・・・や、やめ・・・」
濡れた声を上げながらも、武咸尊は抵抗しようと腕の中でもがく。武咸尊の双丘の狭
間に指を差し入れると、すでにそこは別の人物の体液で潤っていた。これで軍師に弄
ばれたことを確信した。いつもよりも敏感になっているのはそのせいであろうか。武咸
尊の中の軍師を掻きだそうとするたびに、武咸尊の口から吐息が漏れた。
「ッフ・・・んん・・・、も、もう、やめ・・・」
「許せない。たとえ軍師だとて、お前にこんなことを」
「お、お前には、関係・・・ないことだ」
そう言われた瞬間、オレの中で何かが弾けた。
そう言われた瞬間、オレの中で何かが弾けた。
「関係ない?なにが?」
力任せに武咸尊を押し倒し、彼に馬乗りになる。シーツに傷が触れたのか、一瞬武
咸尊は短く声を上げたが、そんなことに気を遣っている余裕はなかった。
「関係あるさ!お前はオレのモンなんだよ。誰にも触らせたくないんだよ!」
怒りに任せ、初めて自分の心内を武咸尊にぶつける。
「わからないか?好きなんだよ、お前が!」
言い放つと、そのまま武咸尊に口づける。
「ん・・・!」
武咸尊の吐息も声も飲み込む。それは自分でも感じるように、今までで一番荒々しい
口付けだった。
武咸尊の目に浮かぶ涙を見て、オレは我に返った。だけど、もう何も言えなかった。
ただ、ひたすら武咸尊が何か言ってくれるのを待つだけだった。
「・・・風泣血・・・」
オレの心とは裏腹に、武咸尊はオレの名前を呟いただけだった。結局しびれを切ら
したのはオレのほうだった。
「お前が軍師のことを思っているのも知っている。でも、そんなお前がみていられなく
て・・・。「処理」だと言ったのは口実だ。オレは卑怯な奴なんだ・・・。もう、お前には何
もしないから」
そう告げると、オレは武咸尊から離れようとした。だが、武咸尊の腕がそれを阻止した。
「・・・軍師は・・・、軍師は私たちの関係を知っていたよ。私はその制裁を受けたのだ」
「そんな制裁だなんて。悪いのはオレなのに」
「正直、制裁を受けたのが私で良かったと思っているよ。仮にもお前達を取りまとめる
のはこの私だからな」
今更ながら自分の犯したことに後悔した。自分のせいで武咸尊は犠牲になったのだ。
「お前が私のことを、そんな風に思っていたとは知らなかったよ。だけど・・・」
「それ以上は言わなくてもいいから」
それ以上はオレが虚しくなるだけだから・・・。
「いいや、言わせてもらう。少なくともお前のことは嫌いではないから。軍師のことはた
だの敬愛だ・・・。そう思うことにするよ」
そう言った武咸尊はオレに微笑んだ。それは今までに見たことのない優しい微笑みだ
った。
「武咸尊・・・。オレが、オレがお前を守ってやるから」
なんだか、能の無いセリフだとつくづく自分で思った。でも、そう伝えたかった。いつもい
つもオレの失態を尻拭いさせられ、それでかつ、自分の任務もこなす。そんな武咸尊の
心の拠り所が少しでも自分にあればいいと思った。
そんなオレの言葉を聞いて武咸尊は苦笑する。
「じゃぁ、今日だけは特別だから」
武咸尊はそう言うと、彼の方からオレに口付けてきた。
「武咸尊・・・軍師にばれたら・・・」
嬉しい心とは裏腹に、再び軍師の制裁が武咸尊に下ることを心配する。
「お前が守ってくれるのだろ?」
そう言って武咸尊はクスクスと笑いながら、再びオレに口付けた。今度は先ほどより
深い深い口付けだった。
少し一方通行のオレの恋が通ったかに思えた。それは自分本位なのかもしれない。
でも、今はそれでも構わない。ほんの少しでも武咸尊の心がオレに開いてくれたのだ
から・・・。
終